「俺、突然、真人間になった」
「どうした、急に」
「自殺計画は中止だ」
「何故?」
「いま、お世話をしてくれている人に申し訳ない」
「殊勝だな」
「俺は、恩返ししないといけない」
「どうやって」
「日々、真面目に生きることだ」
「凄いな」
「いや、それしか出来ないんだ」
「過少評価だな」
「いや、そうは思わない」
「どうしたんだ。人間、変わったぞ」
「これからだ」
「お前にしか出来ない貢献があるよ」
「そうかもしれない」
「真面目に生きろ」
「あいよ」
「3ケ月前に、あと1年くらいと言われた」
「そうだったな」
「あと、9ケ月だ」
「めでたし。めでたし」
「しかし、便失禁には参ったな」
「まだ、序の口さ」
「これから、もっと苦しむのか」
「多分な」
「まあ、霊界に行けることを思えば苦しくないわ」
「霊界なんて退屈なだけだぞ」
「おいおい、今頃そんなことを」
「いや、つい、本音が出た」
「現世のバカバカしさは、もう結構だ」
「バカバカしさ。それが現世」
「あとは辞世の句か」
「たしかに、それは重要だ」
「霊界通信を始めた時、回復への希望があったんだな」
「そうだな」
「しかし、回復はないと確信した」
「それが良い」
「あと1年で俺も霊界だ」
「苦しい現世より良いだろ」
「苦しい10年だった」
「ご苦労様」
「しかし、神は私をどうしたかったんだ」
「それは、神に聞いてくれ」
「霊界にも俗はあるのか」
「ない」
「それは魅力だな」
「いや、俺は俗が好きなんだ」
「皮肉だな」
「ああ」
「死のレールに乗ったよ。施設に入ろうか」
「それもいいな」
「もう、すべてを諦めた」
「良いことだ」
「霊界で待っていてくれ」
「待ってるよ」